転職や定着は哲学や心理学や認知科学で捉えるとまるで違った問題になります。そういった考察です以前の考察のバージョンアップです。
社員の定着問題に関する考察バージョンアップ版
日本生産性本部認定コンサルタント日本認知科学会会員吉田 聡
現代の企業にとって社員の定着は重要な経営課題であると言えるだろう
しかしなぜ社員が定着しないのかという分析に関しては決して十分に行われているとは言えないつまり、需要な経営課題に対する対策は足りていないのだ。
定着とはどんな問題なのだろうか、組織と人の問題と捉えた時に人の問題であれば心理学からのアプローチが考えられる。
1, 社会心理学からの分析
2, 社会心理学では態度という概念を用いて人の行動を説明する
3, 態度は行動の背景にある核心で。
態度=価値信念要素+感情要素+行動傾向要素の3つの要素で構成されると言われる
これに則って定着を僕が医療に従事する組織構成員行ったインタビュー結果から構造化すると
定着=仕事の意味づけ+経験への開放性(性格特性)+優柔不断な行動傾向(周囲の影響)ということになる
他方産業組織の問題と捉えたならば僕の師である故沼吉松氏の産業社会学からの指摘が非常に大きな意味を持つ協働形態と生産性がキーワードである
生産性向上という果実をもたらす産業技術の高度化を、それは意味しているこのような工業化を可能にした条件として人間の協働形態における発展が挙げられなくてはならない。ここに組織の問題が出てくる。組織は協働の高度化された形態であるということが出来る。青沼吉松著「組織と人間」より
組織における生産性を考えるとき経営学の人的資源論・タレントマネジメント論を忘れることは出来ない。
さて組織の生産性をあげるために行ってきたのが組織構成員(つまり社員)の評価や格付け報酬による他者との比較や他者の目線と調圧力による不安の醸成である。ここで脳科学の問題が意味を帯びてくる
なぜなら不安や怒りは人間の古い脳の働きから生まれる感情で新しい脳の働きによる意識が及ばないものだからだ。
つまり経営は人の意識の統制が及ばない部分に圧力をかけて生産性の向上を実現してきたとも言えるのではないだろうか。他者の存在と言う圧力によって人間の適応する力や創造する力を引き出してきたと脳科学的には考察できるのだ。心理的安全性や1on1といった最近のトレンドも脳科学から考えれば自然な流れであると言えるかもしれないしかし学習にとって安心安全は能力開発や成長にとって必ずプラスに働くとも言えない。
さて、そうなると組織と人の関係を考える際に忘れてならないのは哲学である。何を為すべきかという倫理的に正しい指針を無くして人も組織も社会的な存在に成りえない。産業組織が組織構成員に与えるのは疑似コミュニティとしての社会的な存在場所の基盤と報酬という経済性の基盤である
こうして組織における定着の問題は心理学、社会学、経営学、脳科学、学習学、倫理学、教育学、哲学の問題であると定義できるのである。それゆえ組織への定着がいかに分析や定義そして解決が難しい問題なのかよくわかるのではないだろうか。以下少しそれぞれについて考えてみる
哲学における定着:基礎信念の重要性基礎付け主義?
さて定着を認知の問題と捉えると情報の話になる。情報とは環境が認知リソースに働きかける認知の手がかりだ、その認知から好奇心という志向性が生まれる、そして試行が起こり、認知リソースの競合と協調から学習が創発し、信念といった心的「態度」の源泉が生まれると考えられている。
さて世の中情報化社会、社員に働きかける情報が溢れている、転職支援就活支援サイトなどはこの情報の多さが売りだ。友人などの口コミなども情報だ。
定着のために情報を遮断、操作するということは現実的じゃないし社会の倫理にも反するしかし情報にどう反応するのかは理解しておいた方がいいだろう。その根源と考えられるものが行為の志向性は基礎信念から生じるものだという考えだ。
その基礎信念は多くの場合模倣による借り物だ。生得的に信念があるわけじゃないからね。
鳥の刷り込みはよく知られているけど、経験的には僕達の信念も刷り込みによるところが大きいのではないだろうか、育成環境の影響ってやはり大きい。かつてある会社の人事部長が採用に関して八百屋の息子がいいと言っていた、客とのやりとりや、商売への向き合い方といった行為の源泉に潜む信念は日々の暮らしの中で身につけることが多いからなのだ。実際僕が銀行で勤めていた時高い成績を挙げていた先輩はの親は銀行員だった。
しかし下手に基礎信念を確かめようとすると、生まれや育ちに触れることになり差別が生じる恐れがあるので要注意だ。
それに近年ではこういった基礎付け主義自体が非常に無内容なトートロジーであるとみなされている。哲学で定着を考えるのはすでに困難だと明らかなのかもしれない。
そこで哲学における知識と認知科学における知識の違いを考えてみます。
知識とは、正当化された真なる信念であるという定式がプラトン以来の伝統であり、これを「JTB定式」と呼ぶ。
ゲティア問題とは、知識論上の問題で、正当化された真なる信念(en:Justified true belief、以下JTB)に対する反例である。
名前はエドムント・ゲティア(en:Edmund
Gettier)が1963年に上梓した3ページからなる論文『正当化された真なる信念は知識か』(Is
Justified True Belief Knowledge?)に負っている
認知科学における創発するコト的知識
認知科学 の 中 には 類似 の 議論 を 重ね て き た 歴史 が ある。 それ 自体 は 小さく、 限定 的 な 認知
リソース が 環境 との 相互作用 により、 知識 を 創発 する という 観点 を とる 研究 は 本書 が 初めて という わけ では ない。
鈴木宏昭. 私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書) (p.56). 筑摩書房. Kindle 版.
人 に どう 働きかけ たら 何 が 起きる か という「 心」 の 理( ことわり) の 学 が 心理学 だ と
し たら、 特に 思考 や 判断 など「 認知」 の 過程 に 賢 さを 見定め て 研究 し、結果 を 現実 に 応用 しよ う と し た のが 認知科学
だ と いえ ます。
白水 始. 対話力
(p.26). 東洋館出版社. Kindle 版.
心理学における定着:心的態度とメンタルモデル。
基礎信念がその人の根源であるべきを定めているものだとしたら、意識のレベルで動機や特性など心的態度は当人の気持ちと行動の一致であり納得や安心につながるものである。ズレがあると不安や違和感が生じるので、ズレを解消しようとする離職はその表象である。意識を創発するがズレが少ないとポジティブフィードバックが発生し組織に引き込まれる定着する。
やりがいや雇用条件や人間関係など還元的に離職の要素分解し構造化することが可能なので。構成主義的思考に慣れ親しんだ人にはとても納得感があるのが特徴だろう。
さらに心の問題だとすれば働きかけることが可能になる、離職を防ぎ定着を促す働きかけは出来るという理屈は問題解決にとって心強い援軍の出現である。
さて認知科学の知識とは創発するモノであるという立場を踏まえれば離職定着に関しては、やりがい充実感(成長実感、幸福感)納得感、(労働負荷と報酬、社会的評価)といった様々な場面応答性が絡み合っていることがわかる。
Aという原因があるから心が働いて必ず離職するというわけではないのだ。
以前に聞いたサイバーエージェントの話では、ITバブルの時期、会社の急成長と高額の報酬に引き寄せられて雇用された多くの社員のはITバブルの崩壊で会社が苦境に立つと去っていったのだそうだ、
しかし残った社員は会社を支え見事に立て直しその後の会社の更なる成長を実現したとのこと。
残った社員たちは、苦境のさなかにも、その会社に居ること働くことにきっと意味があるに違いないと前向きに捉えていたらしい。確か曽山さんの本にもその経緯は書いてあった。
この事例からは離職と定着の行動を分けたのは当人が認識している心の問題ではなく思考や判断といった学びの過程であることに気づくことが出来る。
残った社員が思わず「きっと意味がある」と口にしたのは偶然ではないだろうこの状況には知識を創発する即ち学ぶ価値があると認知していたのです。
思考や判断を促す場面への応答が定着と学びという行為行動を引き出しそれらの行為行動は事業の回復と成長と言う果実までもたらしたと言えるだろう。
僕は先日、投資効率を考えるなら、経営者は採用と育成を止めるべきだとかいたけど、では経営者は何をするべきなのか、その答えが実はここにあると考えている、経営者は他社を模倣した効率的と思われるツールの選定や心理的に安心安全で働きやすい職場の整備ではなく、社員が意味を生み出す場面と学びの文脈作りに取り組むべきなのである。離職はそれが出来ていないことの証だとも言えるだろう。