6MoNが“鏡”を越える理由
― 自分を見つめるという命令から、意味をめぐらせる営みへ ―
ここ一週間ほど、このブログに「6MoN」というものが登場している。
6MoNについては以前の記事で紹介したが、簡単に言えば「6 Mirror of Narrative」――6つの問いによって、過去・現在・未来における自分の“物語の位置”を可視化するツールだ。
■ 自分を見つめよ ― すべての診断ツールに共通する“命令”
私は20年以上、適性検査や性格診断といった心理測定ツールに関わってきた。
MBTI、BIG5、SPI、16パーソナリティ──どれも目的は異なって見えるが、実はすべてに共通する「指令」がある。
それは「自分を見つめよ」という命令だ。
ゲームに「問題を解け」という命令が内在しているように、心理測定ツールには「自己を理解せよ」というミッションが埋め込まれている。
そしてその命令とともに、解決のための“手段”が提示される。
しかし、私たちは本当に自分をみつめる古典的ツール鏡を越えて「自分を見つめる」ことができているのだろうか?
全ての今日的診断が叶えられていない課題
①日々見つめられない、測定法的限界
毎日200問以上に答える苦痛に耐えることは出来ない。日常的ツールでははあり得ない。
パルスサーベイなどの工夫もあるが重篤な課題も多く指摘されている
②あるべき(ありたい)自分に化粧してしまう
先ほど性格診断には自分を見つめよという指令が内包されていると書いたが企業文脈で用いられる際はその指令は大きく歪められ自分の価値を明らかにせよとなる価値という外的評価に毒されている産業組織では従業員ですら価値なのであるそんな場に心理的安全性などあるはずもない。結果自分を偽るのが常態化するのである。
自分を見つめるという内的行為そのものが、すでに“価値”という外的評価によって歪められているのではないだろうか。
③narative-selfとmininal-selfのミッシングリンクを解き明かせない(後述)
真の自分を知り未来を拓く物語を描くことが出来ない。それは物理的な鏡に悖っているということなのである
■ ミニマル・セルフとナラティブ・セルフの断絶
認知科学では、「ミニマル・セルフ(身体的・感覚的な自己)」と「ナラティブ・セルフ(物語としての自己)」の間に“ミッシングリンク”があるとされている。
私たちは「感じる自分」と「語る自分」を同時に体験できない。
だから、鏡を見ても、そこに“本当の自分”が映っているわけではない。
ジェローム・ブルーナー(Bruner, 1990)は、『Acts of Meaning』でこう述べた。
「物語は、細部の具体性に宿る。」
つまり、自分を知るとは、抽象的な性格特性を把握することではなく、出来事の具体性を物語として再構成することなのである。
■ 意味という次元を生きる ― オルポートとフランクルの洞察
オルポートは「人間を測る次元は“価値”だけではない」として、「意味の次元」を唱えた
。
そしてフランクルは、強制収容所という極限状況で、「人間は生きる意味を見出す限りにおいて生き延びる」と説いた。
両者に共通するのは、価値(Value)ではなく意味(Meaning)によって人間を理解しようとした点である。
価値が他者の評価によって決まるのに対し、意味は「自分がそれをどう生きるか」という内的次元に宿る。
■ 鏡を超える ― スティーブ・ジョブズの“物語の鏡”
スティーブ・ジョブズは毎朝、鏡に問いかけていたという。
「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしていることを本当にやりたいだろうか?
彼にとって鏡は、外見を整える道具ではなく、「意味を問う装置」だった。
そして、彼の人生のイノベーションはすべて“物語”として貫かれている。
それは、技術や製品という“価値”を超え、人間の意味の可能性を広げる営みだった。
■ 橋本康弘氏が語る「犠牲なき循環」と6MoNの哲学
ウェブサイエンス研究会の橋本康弘氏は、テクノロジーの未来を語る中で、次のように述べている。
「人を本人以上に理解し、行動をここちよく導き、人が生きる可能性の広がりを支援すること。そして、それが何かの犠牲を前提とせずに巡っていくための方法論。」
この“犠牲なき循環”という視点こそ、6MoNの核心に近い。
6MoNは、人の内的物語を“測る”ことを目的としない。
むしろ、物語をめぐらせ、意味が循環する構造を取り戻すための装置なのだ。
■ 意味をめぐらせるツールとしての6MoN
産業組織の中で、性格診断は「価値の証拠」として使われてきた。
“どんな人材が価値を生むか”という文脈において、
“どんな人間が意味を紡ぐか”という問いは失われてきた。
6MoNは、その逆を行く。
それは、“物語を通して意味を再発見する鏡”であり、
私たちの“内なる声”をもう一度、世界へ橋渡しするためのツールである。
物語は、単に語るものではない。
それは、私たちが世界と関わりながら自分を再構築するプロセスであり、
「意味がめぐる世界」を生み出すための、最も人間的なテクノロジーなのだ。
■ 結び ― 鏡の向こうの物語へ
6MoNの6つの鏡は、
自己理解を超えて、意味をめぐらせる生態系を描こうとしている。
そこでは、「見る」ことよりも、「つながる」ことが重視される。
鏡を覗く代わりに、
物語をめぐらせよう。
そこには、まだ誰も知らない“あなた自身の未来”が映っている。