ペットロスを癒しに妻と外に出た。
昼は銀座の「つばめグリル」で赤ワインを嗜みながらつばめ風ハンブルグステーキで腹を膨らませ、もうすぐ取り壊されるソニービルのIt's a Sony展を見る。
テレビ、テープレコーダー、ウォークマン、ビデオなど金属の塊からは懐かしさとともにあの頃の自分を感じてしまう恥ずかしさが漂ってきた。
あの時代の僕たちは、恥ずかしさを勢いで乗り越えていたんだ。
少し酔ったその足で、見知らぬ犬に会う為に有楽町線銀座一丁目の深く長い階段を降りて、少し混んだ電車に乗り込んだ。
季節外れの暖かさのせいか、電車の中にはどことなく緩んだ空気が漂っている。
豊洲にある都心にしては大きなショッピングモールのペットショップには相変わらず飼い主を待つ子犬たちが並んでいる。
その場所ではあまり見かけないジャックラッセルテリアは僕たちが先週見送った犬なのだけど、何故か今日に限ってそこに居た。
寄ってきた店員は僕たちの手に消毒剤をかけると生後2ヶ月の子犬を抱かせる。
僕たちの愛犬を失った悲しみを知ってもは彼は売ることを止めようとしない。
「この子は可愛いけどルークじゃないし、代わりにしちゃいけない」
僕が呟くと妻は
「子犬は覚悟が必要なの」
と応える。
子犬を返して外に出ると知らないアイドルたちの歌で賑わっている。
僕たちの悲しみと関係なく世界はいつも賑やかだ。
屋外に併設されたドッグランで走り回る犬たちを二人で眺めていると、ジャックラッセルテリアを散歩させている女性が目に入った。
トイプードルが一大勢力のここのエリアでジャックを見るのは珍しい。
二人でジャックをじっと見つめていると彼女は何かの感じたのか近づいて話しかけてきた。
「中に居るんですか?」
一瞬、僕らは顔を見合わせた後、妻が彼女に真実を伝える。
「実は先週、飼っていたジャックを見送ったの」
「そうだったんですか。何歳だったのですか?」
「16歳よ」
「すごいですね」
「この子はどのくらいかしら」
「5ヶ月です」
「やっぱりやんちゃ?」
「ええ、すごく」
「ジャックはすごいよね」
「そこが可愛くて」
「そうよね、そこが可愛いのよね」
そして妻が
「留守番はどうするの」
と聞くと彼女は
「仕事をしているのでケージに入れて留守番させていて・・・」
と申し訳なさそうに犬に目線を送った。
同じ種類の犬を飼っている(正確には、僕たちは過去形なのだが)だけでどうして人はこんなに無防備に親しく話すことができるのだろうか。
彼女が電車で隣の席にいたとしても話をすることは無いのに。
僕は妻と彼女の犬を触りながら、会話を聞いてそんなことを考えていた。
彼女と彼女のジャックと別れた後、僕たちはもう一度、ディスプレイケースに入ったジャックを横目で眺めて小春日和の豊洲を後にした。