よく、人や組織に関する書籍や研修どで「劇的にかわる」と記載しているものを見かけます。私は、このような記載があると、まず、興味が無くなります。というのも懐疑心が強いのか、どうも「劇的にやせる」など、その手の表現には、興味を持つより、まず拒絶する傾向があるのです。
一方で、本当に「劇的にかわる」のか、というと時間軸の概念を取り入れれば実感があります。つまり、
”本気で粘り強く取り組めば人や組織はかわる”
と信じて止みません。事実、自分が所属する会社では、人も組織もすごくかわりました。
まあ、「劇的」かどうか、は程度の評価なので人によって意見が分かれるところだと思いますが、ビフォアアンドアフターのように、はっと気づくくらい明確な変化はあります。
でもそれは、昨日と今日という時間単位ではなく、やはり、3ヵ月、1年、3年といった単位での変化です。
一方で、目がキラキラ、職場が明るく、などは肌感覚でわかります。目が死んでいる、雰囲気が暗いなど逆の印象も同様にありますから、「かわる」というのは、ポジティブな変化だけでなく、ネガティブな変化も包含していますから、「かわった」と評価を受けてもすぐに喜んではいけません。
さて、人や組織がかわる実感があるのに、素直に頷けないのは何故か、考えてみます。
広告で使われる「劇的にかわる」という表現には
1.ポジティブな変化
2.即効性
3.容易さ
の3つのメッセージが隠れています。どうも、そのメッセージが怪しいと考えているようです。
実は面白い実験があって、サルの協力(強制的ですけど・・・)を得て、脳波を測定しながら画面に(1)、(2)、(3)と3つのシーンを見せるのですが、最初のシーン(1)だけ異なり(2)と(3)は同一の3つのシナリオを見せると(3)のシーンを見たときの脳波がシナリオごとにかわる、つまり、脳が文脈(ストーリー)を区分していることを科学的に捉えることが出来たそうです。
つまり、私たちは、何気に見ているシーンに関しても、その背景にある文脈を脳が感じてしまっているのです。
日頃、人や組織(ダイエットも!)に関して、すぐにポジティブな変化を起こしたい、起こさなくてはならないと感じたり、考えたりしている人にとって「劇的にかわる」という宣伝文言は、前述した3つの文脈で理解され易いでしょう。
「ハウツー」ビジネスの多くはこのような文脈を活用していますが、たまに失敗が露見します。
TVで森久美子さんが取り組んだ○○ダイエットに関して、ご自身のブログで陰の努力があったことを明かされていましたが、それは「即効性」「容易さ」を否定する内容でした。
やらせが問題になった「ほこ×たて」では、映像の順番を入れ替えて文脈を作り変えました。ただ、TVでは、「編集」によって背景のメッセージを明確にする、演出することは一般的です。
一橋大学の楠木教授は「戦略ストーリー」として「順列」の重要性を語られています。
認知心理学では「スキーマ」と呼ばれる「過去の経験や外界についての構造化された知識」(wikipedia)によって認知が変わることを明らかにしていますが、人は、自分の外的足場(経験や知識や道具や情報)を使って行為を創発する存在ですから、外界において構造を操作することで行為を促すことが可能です。
例えば、調理時間を測る時、キッチンタイマーを使いますが、それによって正確に時間を数えるという、人間にとってあまり得意でない脳の負担を減らします。同様にレシピを使うことで、知識と記憶を外部化して、料理というより高度で複雑な行為を創発しています。
このように外的足場は、より複雑な行為を創発することを可能としますが、そこには、人間と外的足場の相互性があります。つまり、外的足場が人に行為を創発させるわけではなく、人が外的足場を使って行為を創発するのです。
「かわる」ということは「今までにない新たな行為を創発する」ことですから、基本、脳は大きなエネルギーを使う=不快に感じる ことです。一方、楽しく感じること=快楽回路が活性化している は増強のプロセスです。
要は、以下のような文言になれば私は頷けるのだと思う次第です。
「この本ともの凄く不快な状態を乗り越えるあなた(達)であれば劇的にかわる」
「この研修とかなりしんどい状態を耐え続けるあなた(達)であれば劇的にかわる」
売れないでしょうね・・・
ストーリー&不快さが「かわる」こと