オレオレ詐欺や特殊詐欺、原野商法、霊感商法、そしてネットのフィッシング詐欺──世の中には明らかに怪しい手口があふれているにもかかわらず、なぜ人は容易に騙されてしまうのでしょうか。
一因としてよく挙げられるのが、「自分だけは大丈夫」「自分は騙されない」と思い込む心理効果、いわゆる「正常化バイアス(楽観主義バイアス)」です。しかし、行動選択の観点から深く掘り下げると、騙される・騙されないという結果の前に、私たちの内面には「信じる」か「疑う」かという選択肢が存在しています。
巧妙な詐欺の多くは、ターゲットに「疑う」というプロセスを踏ませず、最初から「信じる heuristics(直感的判断)」へ誘導する仕組みを組み込んでいます。「息子」「警察」「高評価レビュー」「警告画面」といった社会的信用や緊急性を装う要素、あるいは「簡単に儲かる」というシンプルな金銭的欲求へのアプローチがその代表例です。本来であれば「信じる」前に「事実を確かめる(ファクトチェック)」というプロトコルを1つ挟むだけで回避できるものが大半です。
では、なぜその「確かめる」行為すらスキップして怪しい話に飛びついてしまうのでしょうか。その背景には、脳のLC(青斑核:Locus Coeruleus)による情報処理メカニズムが関係している可能性があります。
脳内のLC(青斑核)は、ノラドレナリンを放出して警戒感を高める「リスク検知(警報システム)」を司る一方で、環境の変動を察知して新たな機会を捉える「チャンス発見(探索行動)」の制御にも深く関わっています。つまり、一つのシステムが「危険の察知」と「機会の発見」という両刃の剣の役割を担っているのです。
そのため、提示された情報に対して強い刺激や違和感(怪しさ)を覚えた際、脳の警戒システムが作動するのと同時に、「これは滅多にない大きなチャンスかもしれない」という強い覚醒・探索反応へと誤って変換されてしまうことがあります。結果として、「怪しいからこそ、裏にある大きな利益(チャンス)を感じ取ってしまう」という認知のバグが生じ、自ら罠へと足を踏み入れてしまうのです。
AIにおける「認知のバグ」とハルシネーション
実は、こうした人間の認知バグによる判断ミスを防ぎ、「客観的に確かめる」ための強力なツールとなるのがAI(人工知能)です。しかし興味深いことに、人間の言語思考パターンや膨大なデータを学習して作られたAIにも、これとよく似た「認知のバグ」のような現象が存在します。それが「ハルシネーション(Hallucination:幻覚)」です。
LLM(大規模言語モデル)は、確率的に「それらしい文脈」を生成する仕組みを持っています。そのため、情報が不足している場合や複雑な問合せに対して、あたかも事実であるかのように堂々と誤った情報を出力してしまうことがあります。人間が確証バイアスや直感(heuristics)に頼って思い込みを起こすのと非常によく似た構造です。
正しいプロトコル:複数のAIによる相互検証
そのため、AIを活用して情報の真偽を「確かめる」際には、1つのAIの回答だけを鵜呑みにしないことが極めて重要になります。
機械学習や認知科学の世界では、複数の独立したモデル(判断主体)の意見を組み合わせることで単一モデルの誤差を減らす「アンサンブル(集団)アプローチ」が知られています。これと同じように、AIを用いてファクトチェックを行う際の最も堅牢なプロトコルは、「アルゴリズムや学習データの異なる複数のAIに同じ確認を行わせ、出力を比較・検証(相互チェック)する」ことです。
人間単体では直感やバイアスに惑わされやすく、AI単体でもハルシネーションのリスクが残ります。だからこそ、仕組みを理解した上で「複数の視点(複数のAI)を挟んで検証する」プロセスを標準化することが、情報過多な現代において騙されないための最強の防壁となります。
