記憶とは、脳内における多感覚の知覚情報が、その都度構成される星座のようなネットワークだと言われている。
昨日、50年来のクラスメートとの再会があった。 話が及んだのは、音楽の最後の試験について。
自分で曲を選んで皆の前で披露するという課題で、試験があったこと自体は皆覚えていた。しかし、「誰が何を披露したか」までは誰も覚えていない。
そんな中、旧友の一人が、驚くほど鮮明に誰が何を演じたのかを語り始めた。 あまりによく覚えているので理由を尋ねると、彼は「音で覚えている」と言った。
確かに彼は学生時代からクラシック音楽に造詣が深く、音感が人一倍優れていた。まさに、音の記憶の素晴らしさを物語るエピソードだ。
そして、彼が語るにつれて、私たちの記憶も次々と呼び起こされていく。 試験中のシーンが見事に蘇ってきた。
「録音していたよね」 「エアギターしたよね」
まさに、50年前のあの瞬間にタイムスリップしたようだった。
面白いのは、そんな「音記憶」の彼が、音の情報がない隣のクラスの人に関しては、まるで記憶がないと言ったことだ。彼の記憶の引き出しは、名前や映像ではなく、あくまでも「音」なのだ。
50年来の旧交を温める場が、期せずして認知科学の検証となった。
