あなたは、点数や性格で生きているのではない。文脈の中で物語を生きている。
「あなたはこういう性格です」
「あなたにはこの能力があります」
「あなたの強みはこれです」
そう言われると、少し安心します。
人は、自分のことがわからないからです。
だから、名前をつけてもらうとほっとする。
点数をもらうと、自分の立ち位置が見えた気がする。
“正解”を示されると、迷わずに済む気がする。
でも、その安心は、ときどきとても危うい。
なぜなら、私たちは本当は、
性格や能力という固定された何かを内側に持って生きているのではなく、文脈の中でその都度、意識し、感じ、選び、行為している存在だからです。
嬉しいときのあなたと、傷ついたときのあなたは違う。
信頼できる誰かの前にいるあなたと、孤独の中にいるあなたも違う。
追い詰められた日の判断と、満たされた日の判断も同じではない。
当たり前のことです。
それなのに私たちは、人を語るときになると急に、
「この人はこういう性格」
「この人にはこういう能力が内在している」
と、まるでその人の中に安定した本質がしまわれているかのように扱ってしまう。
けれどそれは、本当に“実体”なのでしょうか。
むしろ私たちは、その人の行為や結果を見たあとで、
「あの人は能力があるのだろう」
「きっとこういう性格なのだろう」
と説明をつけているだけなのかもしれません。
つまりそれは、真実そのものというより、
あとから与えられた、もっともらしい解釈です。
私はここに、大きな誤解があると思っています。
人の意識も感情も行為も、すべて文脈に深く依存しています。
その場の空気。
相手との関係。
過去の記憶。
身体の状態。
蓄積された痛み。
かすかな希望。
そうした複雑な条件が折り重なった中で、私たちの行為はその都度、立ち上がる。
人は、決められた中身を再生する機械ではありません。
状況の中で、行為を創発する存在です。
しかも私たちは、その行為の結果を通じてまた学習します。
うまくいった経験は次の選択を後押しし、
傷ついた経験は次のためらいを生み、
思いがけず報われた体験は、新しい一歩の勇気になる。
そうやって少しずつ、自分の選び方が変わっていく。
昨日の自分が今日の自分をつくり、今日の自分が明日の自分を変えていく。
だとしたら、私たちの人生を表しているのは、
性格や能力という静止したラベルではなく、
文脈の中で何を感じ、何を選び、どう生きてきたかという軌跡のはずです。
そして、その軌跡こそが物語です。
どんな場面で立ち止まったのか。
何に怯え、何に惹かれたのか。
誰と出会い、誰とすれ違い、どの言葉に救われ、どの沈黙に傷ついたのか。
どこで踏ん張り、どこで逃げ、どこでやっと自分を許せたのか。
そうした文脈の積み重ねが、あなたをつくってきた。
あなたの人生は、外から貼られたラベルではなく、
文脈と創発と行為選択の連なりとして存在しているのです。
だから私は、外側に置かれた“正解”に、あまり安心しすぎないほうがいいと思うのです。
点数。
評価。
性格分類。
能力モデル。
コンピテンシー。
もちろん、全部が無意味だと言いたいわけではありません。
それらは参考にはなる。
自分を見つめる手がかりにもなる。
でも、それはあくまで地図であって、あなた自身ではない。
地図を見ているうちに、景色そのものを見失ってしまうことがある。
ラベルを受け取るうちに、生きている実感そのものを手放してしまうことがある。
「私はこういう人間だから」と説明できるようになった瞬間、
本当はまだ変わりうる自分の可能性まで閉じてしまうことがある。
それは、静かに怖いことです。
人は、自分の外側にある正解に寄りかかりたくなります。
そのほうが楽だからです。
他人が作った尺度の中に自分を置けば、迷いは減る。
「これでいいんだ」と思える。
けれど、その安心は、時に自分の人生を他人の定義に明け渡すことでもある。
あなたの人生を生きるのは、診断名ではありません。
評価シートでもありません。
誰かが作った理想的人材モデルでもありません。
生きるのは、あなたです。
揺れながら、迷いながら、
ときに間違えながら、
それでもその時その場で感じ、考え、選んできたあなたです。
だから、あなたを本当に語るべきものは、
「能力が高いかどうか」ではなく、
「どんな文脈で、何を選び続けてきたか」なのだと思います。
うまくできなかった日も、あなたの物語です。
格好悪かった選択も、あなたの物語です。
あの時うまく言えなかったことも、逃げたことも、遠回りしたことも、
全部、文脈の中で立ち上がった、あなた自身の軌跡です。
人は、外から与えられた美しい概念よりも、
自分の生きた軌跡によってできている。
だから、惑わされすぎなくていい。
「優秀」や「適性」や「強み」という言葉に、飲み込まれなくていい。
誰かの示した正解の中で、安心しきらなくていい。
あなたには、あなたの文脈がある。
あなたには、あなたの創発がある。
そしてあなたには、誰にも置き換えられない、行為選択の軌跡がある。
それが、あなたの物語です。
誰かの物語を上手に生きるのではなく、
あなた自身の物語を、生きてください。
