対象に向き合ってじっくり考える「熟考」とは違い、状況に応じて自然に立ち上がる考えや感情は、思考というより反射に近い。けれどこの反射は、しなやかに生きるうえで大きな役割を果たしている。しかもそれは、意図から先に生まれ、還元しきれないという意味で、まさに創発だ。だからこそ私たちは、「人に自由意志はあるのか」という哲学的であり、同時に脳科学的でもある問いに直面する。
脳科学の知見からは、自由意志が“何かを始める力”として全面的に確認されているわけではない一方で、「ごく短時間なら、衝動を止める意志は働く」といった示唆がある。結論めいて言えば、自動思考は“完全には選べなくても、抗う余地はある”ということだ。
その点で、アンガーマネジメントの「6秒待つ」はきわめて合理的だ。何事にも一呼吸おくと、その場の勢い=しなやかさは少し削がれる。けれど、その代わりに得られるものは大きい。とりわけ大きいのは、他者との関係性である。
稀代の国語教師・大村はまさんも、教師訓として「いちばん最初に頭に浮かんだことは口にしない。それは癖だから」と述べたという。癖になっている自動思考と距離を置くこと——そこには、人生の手触りを変えるだけの価値がある。