2023年4月9日日曜日

「競合し合う行動のコレクション」という生き物

 ブルックス(1991, p.143)は人工的な生き物を作るにあたって四つの必要条件を挙げている。 生き物は、動的な環境の変化に対して適切かつ適時に対処しなければならない。 生き物は、環境に対してロバストであるべきである……。 生き物は、複数の目標を維持可能であるべきである……。 生き物は、世界の中で何かをなすべきである。つまり、何か存在目的をもつべきである。  ブルックスの作る「生き物」は、個々の活動を生み出すサブシステムがいくつか集まってできている。このサブシステムを「層」と言う。この層は、入力を明示的なシンボルによってコード化したり、あるいは入力をコード化しなおして別の層に伝えたりはしない。そうではなくそれぞれの層が、それ自体で入力から行為までの経路を完備しており、個別の層のあいだでの「コミュニケーション」はちょっとしたシグナルの受け渡しに限定されている。ある層が別の層に対してできるのは、その活動を促進・妨害・無効化することである。このようにしてできる機構をブルックスは「包摂アーキテクチャ」と呼んでいる(なぜなら、層はもう一つ別の層の活動を包摂することはできるが、それ以上の詳細なコミュニケーションはとれないからである)。  すると三つの層から生き物と呼べるものが作れる(Brooks 1991, p.156)。 この方法の重要な特徴は、層を一つずつ積み上げていくことができる点である。層を加えていっても、いつも全体で一つの生き物として機能する。注意すべきは、こうした生き物は、データの中央貯蔵庫や、中央計画器あるいは中央推論器に頼っていないということである。その代わりとしてあるのは、「競合しあう行動のコレクション」であり、それが環境からの入力によって統制されている。知覚と認知のはっきりした線引きはない。知覚入力をどこかの点で中央集権的コードに変換し、さまざまなオンボードの推論装置で共有することもしていない。このような、単一目的の問題解決器が複数あって、それが環境からの入力と比較的単純な内部シグナルによって統制されているというイメージは、神経科学的にもっともらしいモデルであり、それはもっと高度な脳についても同様である。以上アンディ・クラーク現れる存在より。

ブルックスのこの指摘は多層的な自己がどのように一体化されているのかという問いに示唆を与えてくれる。脳の構造で言えば本能や自律を司る古い脳と高度な社会性を実現する新しい脳の層があることが知られている、概念的に私達の行動は本能的な無意識のものから、価値観や学習による意識的なものなど、層別に捉えると理解しやすくなる例えば私達は本能の赴くままに行動するわけじゃない。社会的な規範に則って本能行動を自制することができるのだ。この多層的自己の一番重要なところは矛盾や葛藤を抱きながらでも私達は自己というアイデンティティを保持するということだろうそして時には本能的に時には理性的に振る舞ってしなやかに生きているのだ。

脳の層別
意識と行動の層別