2013年3月10日日曜日

桜木あたり

根津から住宅地を抜けて坂を登ると小高い山の上にでる。もう少し正確に云うなら、文京区の根津と台東区の池之端の境目を進み、坂道を登っていったところが桜木である。

ここは、東京芸術大学の裏側にあたる地域だが、昔、上野周辺にお寺が集められた経緯から、道を往くと多くのお寺に行き当たることもあり、感性と静寂と歴史を感じることができる一帯だ。まだ、木造の古い住宅も点在し、街を彩っている。

この時代に古い住宅に住む人は、何らかのこだわりがあるのだろう、良く手入れされている印象で、街への愛情をも感じさせる。また、それらの住宅を改装して店舗にしている店も見当たり、それらの店には何がしかのアートがあって、古さのなかに新しい感性が息づいている。

その中の1つの店、店主は、齢六十過ぎの女性であった。

品の良いその店主は、私が店に入ると、すかさず持っていたデジタル一眼カメラを見て
「今日は、よい被写体に出会えましたか?」と声を掛けてきた。
その店主は、店を始める前、プリントラボをやっていたらしい。写真フィルムを現像する仕事である。

カメラがデジタルになり、コダックやポラロイドなどフィルムメーカーが倒産しているなか、現像が仕事として成立しなくなったのだろう。それまで、どのくらいその仕事にこだわり、愛していたのかその店主が語る事は無かった。

数年前に全ての現像機材を処分したというその店主は、オリジナル雑貨、セレクト雑貨が並ぶお店の中、真ん中に吊るされた数多くのカラフルなカメラストラップの前でつぶやいた。

「自分で撮った写真の現像もできないのが寂しいですよ・・・」


桜木あたり、この一体が桜の花で染まる季節がもうすぐそこに来ている。


アートがある街、生活